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紅子

28「人間ジュークボックス」


今は舞妓さん大人気どすけどうちらが舞妓やった頃は舞妓はあくまで芸妓さんの卵で、お座敷

 では一人前として扱うてもらわれしません。

 それに数もようけで、なんか人より目立つ事、印象に残る事せなんだら、お声が掛かりません

 し毎日お茶挽く事になりますねん。

 お茶挽くとはどっこも行くとこのうて、その日一日お座敷へ呼ばれへんかった事を

 云うてました。

 お茶挽いてしもたら、おしろい部屋のお掃除やら足袋洗いやらが当たるし、みんな何とか

 お茶挽かんよう努力してたんどす。

 そらもう、みんな色々考えてはりました。

 ものまねする妓やようけ食べる妓(今で言うたら大食いタレントさんみたいな)

 逆立ちするって云うんもありました。

 うちが考え出したんは人間ジュークボックスどすねん。

 昔、お金入れて好きな曲選んでボタン押す機械おしたやろ?あれどす。

 お客さんや姉さんが曲の題名言わはったら何でも一番歌います…と。

 毎日毎日、お稽古の合間に色々な歌の練習しましたわー。

 歌謡曲、軍歌、童謡、民謡 それでも知らん曲もありますし、そんな時は

 「かんにんどっせ、今日はもう売り切れどす」と云うてました。

 おかげさんでお客さんや姉さんから「ジュークボックスの妓呼んで」とお声かけてもらう事が

 増えて来て段々お茶を挽く事はのうなって行きました。

 何かの折にジュークボックスやってた時に歌てた懐かしい曲を耳にしました。

 「あ~この歌題名何やったかいなぁ」

 思い出さしまへなんだけど歌詞は覚えてますねん。

 今では歌わはる人も少のうなったやろなぁと思われるその歌で、人間ジュークボックス

 やってた頃の情景が、鮮やかに思い出された一瞬どした

 おおきに  又  おはように

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